lond日記

思ったことを気まぐれに書きます。

今の男子ツアーを進化させるのはフェデラー選手だろうという話 (テニス)

男子プロテニスは日々続く進化の歴史

これまで男子のプロテニスツアーは "新しい存在" が登場する度に進化してきました。

サーブアンドボレー、トップスピン、両手打ちバックハンド、ビックサーバー、それに対抗するリターン、道具の進化で得られた強力なスピンとそれを延々打ち合える展開、クレーコーター、ライジング、時間を奪うテニス、速い展開によるラリーを続けないテニス。途中にはナダル選手という唯一無二の存在も居ました。

これらは女子プロテニスツアーでは見られません。女子プロテニス選手も個々では進化しているでしょうが、個人的には、基本部分ではシュテフィ・グラフさんあたりがやっていたテニスから大きく変わっていない気がします。その後もたらされたのは、モニカ・セレシュさんから始まるパワーテニスと先行する男子テニスからの多少の影響だけです。女子プロテニスには2mを越すビックサーバーが次々現れるという事もないし、男子と変わらないようスピンを打ち続ける選手も、常に下がらずライジングでボールを打ち、スキあればネットを取り、サーブから3球目で決めてしまおうという選手も居ません。5セットの試合を7回勝たないと優勝出来ないようなツアーに出続ける負担も違います。女子プロテニスの状況を知る訳ではないですが、素人目に見ても女子プロテニスツアーと男子プロテニスツアーでは大きな差があると思います。(よく例として言われるのは女子No.1のセリーナ・ウィリアムズ選手ですら男子100位の選手にも勝てないだろうということです。)

現状の男子プロテニスを次への進化に導くのはフェデラー選手かも

さて本題ですが、男子プロテニスツアーにおいて次の時代への進化を起こすために登場してくる "新しい存在" ですが、ここ2-3年で次への男子テニスの進化の方向性を示してるのはフェデラー選手だと思っています。

Congratulations Roger

これまでテニスの進化をもたらしたのは常に新しい存在である"若い選手" だったのですが、テニスの道具の進化は二十数年前の革新から大きく変わっておらず、コンディションの維持や体のケアが充実した結果、男子プロテニスツアーの選手寿命は伸び、10代の選手が上位で活躍できる余地は小さくなっています。グランドスラムで優勝した10代選手は2005年のナダル選手以来出ていません。というか2004年以降の53のグランドスラム大会の内、フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレー以外が優勝したのは7大会しかないのです。

男子プロテニスの停滞感

「速いテニス、相手の時間を奪うテニス」は最近言われる事ですが、道具の進化が一段落し、サーブやストロークのスピードがこれ以上伸びる余地が無くなっています。体格や才能でスピードを上げるには限界があるし、トーナメントに参加するほぼ全員が200km/hを超えるサーブを打て、皆がそれをリターンできる状況です。この中で相手を攻める方法が「相手の時間を奪うこと」であり、「戦術」「技術」なのだと思います。

※ベテラン選手が多い事でTV等の解説では「経験」を強調する事が多いですが、皆豊富な選手ばかりなので大きい大会で若手と対戦する以外は表立って差にならないと思います。(この点でも女子は違いますね。)

長い期間「戦術」や「技術」を打ち破れるものが「パワー」だった訳ですが、皆が同等の能力を持つ状態になればその中で差を生むのは「戦術」「技術」になるという訳です。「時代は巡る」ですね。これも若い選手が活躍しづらくなっている要因だと思います。

速いテニス、時間を奪うテニスをどう考える?

ただ、サーブスピードや回転量などとは違って「速いテニス、相手の時間を奪うテニス」といったものは具体的にどう変わるのか理解しづらい部分ですね。よく言われるのは「ベースラインから下がらない」とか「ライジングで打つ」といった事ですが、個人的には少し違う見方をしています。

それは「ベースラインを基準にする」のではなく「相手と自分の間の空間や距離感を基準にする」という感じでしょうか。例が極端ですが初心者の方はベースラインを基準にポジションを決め、飛んで来るボールに関係なくベースラインに沿ってボールを追いかけようとしますね。だからストレートには打ててもクロスに打つのが苦手だったりします。つまり、イン、アウトの判定はラインの存在で行うのですが、ネットもラインもない所でボールを打ち合っていると考えれば、今相手から飛んで来るボールがどんな軌道を描きどこに着地しどうバウンドしてくるかが重要であり、自分がどこに居るかは関係ないという事です。

フェデラー選手の最近のプレイを見てみると

フェデラー選手の話に戻りますが、元々偉大な選手ですし、ラケットを97インチに変え、サーブアンドボレーを用いる等した点が注目され、ベースラインから下がらないテニスも以前から見せていたものをより徹底して来ていました。また、一昨年見せたSABRも恐らく練習の中で試していてより攻撃的なリターン、ネットに早く付くという取り組みの中で生まれたアイデアかなと思います。

ただ速く打つだけでないライジング以上のもの

ただ、できるだけ下がらず打つということはライジングを通り越した "ハーフバウンド" で打つ事が多くなり、片手バックを攻められる事も多いフェデラー選手にはよりミスの多くなる危険性があります。ただ、ナダル選手との対戦で徹底的にバックハンドを攻められた事から意地になってバックハンドを強化してきた経緯の延長線上で進化してきており、特に今回の全豪オープンでは仮にハーフバンドであっても単に返球するだけでなく、相手が打ちづらい所、深さ、回転で攻撃的に返球できるになり、また通常の片手バックハンドも当たりが厚くなってワウリンカ選手のようにバックハンドからウィナーを狙えるようになっていました。

因みにワウリンカ選手はストレートから逆クロスに強く打つウィナー狙い(そういう風に強く打てる打ち方)ですがフェデラー選手の場合はクロスにも強く打てていました。技術的にはフェデラー選手の方が難しいはずです。

サーブアンドボレーから派生した短いラリーで確実に決めるということ

また、2014年に復活した際に多用したサーブアンドボレーは長いラリーを避けるためとサーブアンドボレーに慣れていない現代選手を混乱させる目的があったと思いますが、2015年以降はサーブアンドボレーそのものではなく、ポイントを早く終わらせるためにはという方向性に進んだと思います。相手の態勢を崩すボールを打ち、相手がボールを追う姿勢を見るや否やネットに出て返球をボレーで決めてしまいます。

ボールとの距離感が変わった?

また、今回の全豪オープンの試合を見て思ったのが、フェデラー選手のボールとの距離感です。上で「ベースラインではなく相手との間の空間を基準にする」と書きましたが、他選手が後ろ目の位置でバウンド後ボールが飛んで来るのを待って打つ(「しっかり構えて打つ」強く打てるし打つ方向がわかりにくい) のに対し、フェデラー選手はベースライン付近に居ることでボールがバウンドした直後を叩く事が多いのですが、そのボールとの距離感がほんの10cm位かもしれませんが近くなっている気がしました。

それは単にライジングで打っているといった内容で説明できるものではなく、ボールを打つ距離感のマージンを削ってより前で打つという意図から来ているように感じました。

ライジングってタイミングが速いだけでボールを待っている点は変わらない?

素人ながらに最近思うのは「ライジングで打つ」って打つタイミングが速いだけで結局バウンドするのをその場で待っているのは変わらない ということです。自分から意図を持ってボールに近づくのと昔から言われる「ライジングで打つ」のは明確な違いを感じます。

単にライジングで打つタイミングを速くしていけば、ハーフバウンドで打つ、ノーバウンドで打つとなってくるでしょうが、自分からボールとの距離感を積極的に縮めることでこういった単にタイミングを速くして確実性が下がるリスクを避けながら相手の時間を奪える気がしたのです。


このフェデラー選手が進めている取り組みを純粋に取り入れようとしていると感じるのがマレー選手です。

マレー選手のストローク

今回の全豪4回戦では錦織選手もフェデラー対策ということかもしれませんが同じような取り組みを見せました。

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マレー選手も元々かなり下がった位置から2m以上踏み込んでリターンするタイプですが、最近はフェデラー選手のSABRに近いベースラインからサービスライン付近まで進んでリターンする練習をコーチとやっていて、実際に試合でも見せています。

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また、フェデラー選手が見せる、相手の態勢を見極めてすかさずネットに付く流れも去年位から多用するようになりました。マレー選手は元々ネットプレイも得意なのでこの動きにも違和感はないと思います。

2017年の男子プロテニスツアーはどうなる

私は今年のATPツアーはマレー選手を中心に回るだろうと思っていますが、単にジョコビッチ選手の調子が落ちてきたというだけでなく、マレー選手がこういった男子テニスの進化を敏感に感じて取り入れようとしている事が大きいです。守備的選手と言われたマレー選手が、レンドルコーチ、モレスモコーチ、ビヨルクマンコーチを付けて進化を模索したのがいい方向に出てきたと思います。

ジョコビッチ選手はそのショットの正確性で試合をコントロールしきって勝つタイプですが、決して新しいタイプの選手という訳ではありません。トップ30にいる選手を見ても、マレー選手と同様の進化を模索していると感じるのは、錦織選手とラオニッチ選手位でしょうか。他の選手は現状の自分を強くしようとはしていても次の時代のテニスに進もうとしている感じはあまりしませんね。

男子テニスツアーの進化の方向性が各選手に明確に見て取れるようになるまで、フェデラー選手には頑張っていただきたいし、引き続き応援していきたいと思いますね。